第28回男く祭記念文集 [ 目次 | 前のページ | 次のページ ]

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48回生  藤木 創



人間は、中間の生き物だ。
理想にも現実にも徹しきれずに、やがて死んでゆく・・・
F.J.キ−ン



あいつが「落ちて」きたのは、ある蒸し暑い夏の日だった。縁側でアイスを食べていた僕の目の前に、何かが目にも止まらぬ速さで落下した。(もっとも、僕は最初、まったくそのことに気がつかず、庭の真ん中にあいた見なれない穴を見て、初めて何が起こったのかを理解したのだが)穴は、見当もつかないほど深い。
「オ−イ、母さん!庭に穴が・・・」
台所から母さんも出てきて穴を覗き込む。
「懐中電灯で照らしてみよう。」
見えない。
「光が弱いな。」
僕は、自分の自転車のライトをはずしてきた。自動車のヘッドライトと同じ型のやつで、これなら光も強い。
「見えた!」
深いところで何かが光った。
「もしかしたら隕石か何かかもしれないわよ。」
母さんはえらく興奮している。しかし、あんな深いところまで届く道具がない。
「ちょっと降りてみてよ。」
「僕が?」
全く、人使いの荒い親だ。だが、確かに母さんでは太りすぎていて穴には入れない。
「わかったよ。じゃあ、あそこの柱に縄を結び付けてよ。倉庫にあるから。」
母さんが縄を結んでいる間、僕は穴の中をずっとのぞいていた。いったい何なのだろうか。やはり隕石なのか。いずれにしても、こんな落ち方をしたのだから、何かすごいものである事は間違いないだろう。
「結んだわよ。」
母さんが縄を引っ張ってきた。
「よし。じゃあ、行ってくる。」
受け取った縄を穴の中に落とすと、僕はゆっくり降りはじめた。下に進むにつれて、だんだん手に汗がにじんでくる。と、その時、
「あっ!」
一瞬の出来事だった。
「いて−・・・」
縄から手を滑らせて、落ちてしまったのだ。
「ちょっと、大丈夫!?」
心配してみている母さんの顔が小さく見える。かなり深い所まで落ちてしまったらしい。しかし、幸い縄はまだとどいている。
「良かった。」
一息ついて、縄をつかもうとしたその時、僕は自分が、思った以上に大変な状況におかれている事に気がついた。腰のあたりが、穴につまってしまっていたのだ。
「オ−イ、母さん、何か土を掘る道具を降ろして!!」
そんなこんなで、僕が穴から出たのは暗くなってからだった。それからまた、悔し紛れに物干し竿を突っ込んだり、石を投げ込んだりもしてみたが、まさか取れるはずもない。結局、明日になったらとりあえず警察に電話して、何がおこったのか確かめてもらう事にして、家に上がって遅い夕食を食べ、ベッドに入った。



寝苦しい夜だった。横になっている僕の顔を汗が伝ってゆく。
「ウ−ン・・・ん?」
変だ。僕の顔を下から上に向かって伝っていく汗がある。蚊か何かだろうと思い、手で払いのけようとした。しかし・・・
「イテッ!」
電気ショックのようなしびれが全身に走り、僕は飛びおきて跳ね回った。

なんだ?一体

やっとのことでしびれが消え、僕は電灯のスイッチに手をかけた。照らし出されたベッドの中央には、小さな銀色の人間のようなおもちゃが転がっていた。

こんなもの家にはないぞ・・・

いぶかしく思いながらも、僕はその銀色のものを片づけようとした。
「コラッ!」
「ヒッ!?」
後ろに飛んだ僕は、今度は思いっきりクローゼットに腰をぶつけた。その銀色のものは、腰が痛くて身動きできない僕に歩み寄り、手の平に乗った。
「シツレイジャナイカ。」
こっちは何がなんだか分からず口もきけない。ベッドのそばで見合ったまましばらく時間が流れた。

とにかく父さんと母さんに・・・

部屋を出ようとする僕に、銀色のやつは言った。
「ムダダ。チキュウノオトナニワタシノスガタハミエナイ。ソレニ、ワタシハキミニキガイヲクワエルキハマッタクナイ。」
なんとなく悪いやつではなさそうだ。人を呼ぶのはやめにして、話を聞いてみることにした。
「君はどこから来たんだ?」
「ワタシハウチュウカラキタ。セイカクニイエバチガウノダガ、セツメイスルトナガクナル。」
「じゃあいいけど、言葉はどうやって・・・」
「ソンナモノハ、ハンニチアレバドウニデモナル。キミタチノカイワヤ、テレビノオンセイナドヲサンコウニサセテモラッタ。」
「どうにでもなる・・・ね・・。」
「ナカナカイイヘヤダナ。コレナラモウシブンナイ。」
「は?」
「シバラクセワニナル。サシアタッテ、ワタシノカラダニアッタベッドヲツクッテモライタイ。」
「ちょっと、おい、勝手に・・・」
「マア、イイデハナイカ。ココデアッタノモナニカノエンダ。」
「そんな・・・」
ともかくそれが、あいつと僕との長い付き合いの始まりだった。



あいつは最初のうちは慣れない生活に戸惑っていたようだが、一週間もすると日本語の不自然さもなくなって、だんだんと家中を動き回るようになっていった。そんなある日、
「ただいま。」
部屋をのぞくがあいつがいない。父さんの書斎の方から声がした。
「オイ、チョット聞キタイノダガ。」
あいつは机の上で何か分厚い本と格闘している。
「人間ハ、ココマデ理屈ニコダワル種族ナノニナゼ・・・」
「おい、これ、哲学の本だけど・・・」
「ソウダガ。」
「ソウダガじゃないよ、父さんだってまともに読んだ事ないんだぞ、この本。僕なんかに聞かないでくれ。それよりさ、外いこうよ、外。」
「オイ、聞クダケデモ・・・」
いやがるあいつを胸のポケットに突っ込んで、外へ出た。いい天気だ。風が心地よい。
「家の中ばかりだと、体に悪いぞ。」
「確カニ気持チハスッキリスル。」
「君の故郷もこんな感じなのか?」
「マアコンナトコロダ。タダ、モット広イ。アト、キレイダ。人間ノヨウニ道ニゴミヲ捨テタリハシナイ。」
「もしかして、さっきの事怒ってる?」
「ソウデハナイ。タダ、見タママヲ言ッタダケダ。ソモソモ、サッキ言オウトシタノハダナ・・・」
「おっと、危ない。」
トラックが、横を猛スピードで通り過ぎていった。あいつは去っていくトラックを、話すのも忘れてしげしげと見つめていた。
「アレガトラックカ。確カニクサイガスヲハキ出シテ走ッテイル。マッタク、ナゼアンナ物ガ自分達ノ星ノ上ヲ走ルノヲ、人間ハダマッテ我慢デキルノダ。」
僕は吹き出した。
「おいおい、あれは、人間が作ったものなんだ。家畜じゃないよ。こういう事には無知なんだな。」
「コノ星ハ、ワカラナイ事ダラケダ。人間ハ、不条理ノ塊ダナ。アンナ臭イ物ヲ自分デ作ッタウエニ、喜ンデ乗ッテイルトハ。」
「でも、近頃は、電気自動車とか出てきてるよ。ああいうガスを出さないやつ。」
「ナラバ、ナゼ早クソレヲ導入シナインダ?」
あいつは、相当いらいらしている様子だ。
「そんな、いきなり変えると、ガソリン会社がつぶれたりして大変だろ。それに、お金がない人とかはどうするんだよ。」
あいつは、もうすでに聞いていなかった。しきりに首をかしげている。もう話すのが馬鹿らしくなった。
「なあ、映画でも見ようか。おい!」
「ア?アア、映画カ。マエカラ見タイト思ッテイタ。面白ソウダ。」
映画はいくつもやっていたが、適当に『 WAR OF THE UNIVERSE 』のチケットを買って、中に入った。
「ドンナ内容ダ?」
「宣伝で見ただけだからよくは知らないけど、宇宙戦争の映画だよ。」
「宇宙戦争・・・カ。」
あいつは少しいやそうな素振りを見せた。
「やめとく?」
「イヤ、イイ。」
「もしかして、本当の宇宙戦争とか経験した事あるの?」
「マンガノ読ミスギダナ、全ク。我々ハ、戦争ナドシナイ。」
「お、はじまったぞ。」
・・・そして映画はクライマックス、宇宙空間での大決戦である。しかし、ここに来て、胸ポケットの中のあいつの様子がおかしくなった。
「どうしたんだ?」
「コレハ少シ失礼デハナイカ?」
「一体どうしたんだ、いきなり・・・」
「コノママデハ地球人ガ間違ッタ認識ヲスルコトニモナリカネナイ。チョットイッテクル。先ニ帰ッテイテクレ。」
「おい、待ってくれ、どこへ・・・」
ふと気がついて後ろを見ると、客の視線がすべて僕に集中している。
「すいません・・・」
頭を下げて、再びポケットを見たときには、もうあいつの姿は消えていた。結局、それから僕は映画を最後まで見たのだが、終わった後で、やられ役の宇宙人がどうもあいつに似ていたような気がしてなんとなく気になった。
「ただいま。」
いつもなら返ってくるあいつの返事がない。部屋にはあいつの姿はなかった。あいつの足だから、そんなに遠くへ行けるはずはないのだが・・・
「あ!」
ない、宇宙船がない!すっかり忘れていた。あれを使えばあいつでも遠くへ行ける。
「いったい何を考えてるんだ、あいつは・・・」
僕は、夕食が終わってもダイニングのテレビの前でぼんやりあいつの事を考えていた。テレビの中ではニュースキャスターが黙々と原稿を読んでいる。
「面白い人もいるものねえ。」
母さんの言葉で、初めてキャスターの声に耳を傾けると、どこかで聞いたような事を言っている。

『臨時ニュースです。つい先ほど、かなり酔っ払っているとみられるサラリーマン風の中年男性が首相官邸に乱入し、首相と直接話したいと居座っています。要求は、えー、WAR OF THE UNIVERSE の上映中止並びに映画制作スタッフの宇宙人誤解に対する謝罪、あと、電気自動車の即時導入、です。』

キャスターの顔が笑っている。おそらく、日本中が吹き出したに違いない。
「まさか・・・」
そのまさかだった。あいつはその夜遅く帰ってきた。
「おい、何やってたんだよ。」
「起キテイタノカ。」
「当たり前だよ。あんな事やらかしといて。」
「ヤハリバレテイタカ。コレハナ、正義ノタメニヤッタコトデ・・・」
「わかってるよ。でも、あの映画に出てきた宇宙人は君じゃないんだよ。」
「ダガ似テイタゾ。」
「地球の大人には君は見えないって、自分で言ってたじゃないか。」
「マア、細カイコトハイイデハナイカ。トニカク、アマリ間違ガッタイメージヲ持タレルト、将来困ルノダ。」
「将来?」
「マア、イイデハナイカ。ソウダ、ドウヤッテアノ男ヲ操ッタカ聞キタクナイカ?」
「もういいよ、そんなこと。全く・・・思い込んだら見境がなくなるタイプだな。本当に君の国では戦争はないのか?」
「ナゼダ?」
「地球では、君みたいなタイプが戦争を起こすからだよ。」
その後、あいつは何事もなかったようにスヤスヤ眠っていたが、僕は、あの中年男のその後の運命が気になって一睡もできなかった。(後で聞いた話によると、その日のうちに釈放されていたらしいが)
「全く、気楽な奴だよ。」
そんなあいつに、なぜか僕は、少し親しみを感じていた。



「タッタ今、世ニモ恐ロシイモノヲ見テキタゾ!」
宇宙船から出てきたあいつはえらく興奮している。
「おい、お願いだから、その船で出歩くのはもうやめてくれ。またこの前みたいな事になったらどうするんだよ。」
「マア聞イテクレ、サッキ外デ、子供ガ数人座リコンデイタノダ。」
「そんなのが恐ろしいのか?」
「イヤ、ソウデハナクテ、ソノ座ッテイル子供ノ目ノコトヲ言ッテイルノダ。」
「目?」
「ソノ目ノ恐ロシイコト!アマリニ恐ロシイノデ見入ッテシマッテ、危ウク船ノ操縦ヲアヤマルトコロダッタ。」
「世の中荒んでるからなあ。」
「荒ンデイルノハ大人タチダケダト思ッテイタゾ。」
「夢のない時代なんだよ。」
「君モ無イノカ?」
「あるというか無いと言うか・・・。でも、今時何か夢があってそのために勉強してる人なんて、あんまりいないんじゃないかな。
「大変ナ事ダゾ、ソレハ。ソレデハ、何ヲシニ学校ヘ行ッテイルカワカラナイデハナイカ。国ノ未来ガ危ブマレルゾ。」
「夢と学校は別だよ。行ってないと、生活できないじゃないか。世の中、君みたいに理想ばっかりじゃ生きていけないよ。」
「サビシイ所ダナ。地球トイウノハ。」
「だいたい、君に夢はあるのか?」
「ソレハアルトモ。」
「どんな?」
「今ハ秘密ダ。」
そう言うと、あいつはベッドに入って寝てしまった。



「最近のニュースは暗いのが多いな。」
夏休みも半ばをすぎた。僕は、テレビの前で少し遅い朝食をとっていた。テレビには、母親が息子に長いこと食事を与えずに餓死させたと言うニュースが流れている。
「全クダ。親ガ子ニ愛情を注ガナクナルトイウノハ、直接種ノ滅亡ニツナガル事ダ。人間ハ生キ物デアル事ヲ自カラ放棄シヨウトシテイル。」
「あのさ、前から言おう言おうと思ってたんだけど」
「何ダ。」
「君はこれまで、人間の悪い所ばっかり見過ぎてるよ。人間だって、そこまで捨てたものじゃないんだ。」
「ワカッテイル。シカシ、人間ハ、ソレヲ差シ引イテモ余リアル程愚カデアルコトモ確カダ。自分ノ国ノ人間ニ、借金ハ極力避ケロト言ッテオキナガラ、国デハ返セナイ程借金ヲシテイル。気ノ遠クナルヨウナ数ノ核兵器ガ星ノ上ニアルトイウノニ、マルデ自分達トハ関係ナイト言ワンバカリニ、普通ニ星ノ上デ生活ヲ営ンデイル。コンナ無神経ナ生キ物ハ、宇宙広シトイエドモ今マデ見タコトガナイ。」
「そんなに淡々としゃべるなよ。なんか、こっちまで悲しくなっちゃうじゃないか。」
「スマナイ、スマナイ。ソウイウツモリデハナイノダ。ソウダ、外ヘ出ヨウジャナイカ。」
「そろそろそんなに悠長な事も言ってられないんだよ。夏休みの宿題、全然手をつけてないんだ。」
「ソウカ。地球ニハソンナ物モアッタナ。」
「君の所は無いのか?」
「休ミトイウノハ、自分ノ興味ノアル事ニ一生懸命打チ込ム時間ダ。」
「いいなあ。」
「ソウイウ事ヲ言ウノハ自分ノ夢ガ見ツカッテカラダ。私ハ応援シカデキナイガ、ガンバレ。」
「ありがとう。さあ、やるか!」
「ジャア私ハ、船デ散歩デモシテコヨウ。」
「また、総理大臣の所とかに行かないでくれよ。」
「ハハハ、ジャア、行ッテクル。」
僕は、あいつの宇宙船が飛び去った後をしばらく見送っていた。空の青さが目にしみるような日曜日だった。



「遅いな、あいつ。」
あいつは日が落ちても帰らなかった。さっきから窓の外の、あいつが出ていった方向を見ているのだが、何の変化も無い。いや、昼間より少し雲が出てきたかもしれない。
「やっぱり探しに行こう。」
窓際から一歩離れたときだった。何かが窓ガラスを破って部屋の中に突っ込んできた。

何だ!?

危うく体を貫かれる所だった。突っ込んできたのは・・・何と、あいつの宇宙船だった。あいつは宇宙船から出てくると、ふらふらした足取りで僕の前に倒れ込んだ。よく見ると、宇宙船に無数の傷がある。
「おい、一体どうしたんだ!」
そこに、再び窓ガラスを突き破って三つの物体が飛び込んできた。あいつの船と同じ形だった。ハッチが開き、三人の、あいつと同じ格好のやつらが現れた。
「どういうことだ、これは・・・」
僕は、誰に言うともなくつぶやいた。
「オサワガセシテスミマセン。ワタシタチハ、タダソコニイル『キケンジンブツ』ヲツカマエニキタダケナノデス。ジャマサエシナケレバ、アナタニキガイハクワエマセン。」
「危険人物?」
「ソウダ。ソイツハダツゴクハンナノダヨ。」
「こいつが・・・なんで・・・?」
「チョット、ワレワレノクニヲフヒツヨウニサワガセタモノデネ。」
あいつは、気絶しているのかしゃべりたくないのか、黙ってうつむいている。
「キミモ、ソイツトセイカツシタノナラワカルダロウ。アマリセイギヤリソウヲフリカザスモノガイルト、クニハタチユカナイ。」
「やっぱり、今までうそついてたんだな・・・」
「スマナイ・・・」
あいつは、うつむいたままつぶやいた。
「キミニモ、メイワクヲカケタナ。サア、ソイツヲコチラニヒキワタシテクレ。」
「ひとつ聞きたいんだけど。」
「ナンダネ。」
「星に帰ったら、こいつは・・・」
「モチロンシケイダ。シカシ、ミョウナキハオコサナイホウガイイ。イマワレワレヲタオシテモ、ナンドデモオッテハヤッテクル。」
「・・・・・・」
「サア」

渡せない!

「待テ!」
拳を振り上げた僕を、あいつが制した。
「我々ハ、攻撃ニ電気ヲ使ウ、何カ電気ノ流レナイモノデ叩クンダ!」
「そうか、助かった」
僕は、すばやく側にあった国語辞典で慌てて宇宙船に戻ろうとする三人を叩き伏せた。
「さあ、早く逃げてくれ!」
あいつはなぜか動こうとしない。
「早く!」
「・・・君モ、一緒ニ来テ欲シイ。」
「え?」
「私ハ、ココニ憎シミモ悲シミモナイ理想郷ヲツクリタイ。君ノ協力ガアレバナントカナリソウナ気ガスルノダ。」
「そんな、いきなり言われたって・・・」
「頼ム」
「そうだ、だいたい、そんな小さな宇宙船に、僕が乗れるわけないじゃないか。」
「ソノ事ナノダガ、乗ロウト思エバ乗レナイコトモナイノダ。」
あいつは、宇宙船の中から赤い粉を取り出してきて、僕の手の平にのせた。
「コレヲ飲メバ、船ニ乗レルヨウニナル。タダ・・・」
「ただ?」
「ホトンドノ地球人ニ君ノ姿ハ見エナクナル。」
「家族にも?」
「ソウダ。」
その時、階段の下で母さんの声がした。階段を上りだしたようだ。

どうしよう・・・

「アトハ、君自身デ決メテクレ。」
そして、あいつは一人宇宙船に乗り込んだ。
「母さん、ごめん!」
勢いよく粉を飲み込んだ瞬間、もう僕は宇宙船の中にいた。
「アリガトウ。サア、モウ出発シナケレバ。アノ三人ガ目ヲ覚マサナイウチニ。」
宇宙船はゆっくり浮上をはじめた。
「おい、ちょっと・・・」
小窓から外を見ていた僕は、腰を抜かしそうになった。
「僕が、もう一人!」
そう、そこには確かに、僕がいた。母さんから何かひどく怒られている。多分割れたガラスの事だろう。
「驚イタカ?アレモ、君ナノダ。正シク言ウト、アレガ君ノ本体ダ。今ココニイルノハ君ノ精神ノ一部ナノダヨ。ダカラ君ガ旅立ッテモ、アッチノ君ガココデノ生活ハ続ケテクレルノダ。」
「ひえー、なんかとんでもないことになっちゃったな・・・」
「シッカリ見テオイタ方ガイイ。シバラクオ母サントモオ別レダ。」
「え?」
「シバラクノ間地球を離レル。新タナ追ッ手ガ迫ッテイル。」
「・・・・・・」
もう一人の僕をしかっている普段ならうっとうしい母さんの顔が、この時ばかりは宝物のように見えた。
「イクゾ。」

サヨナラ、母さん

閉じていた目を開いたときには、もう地球は見えなくなっていた。
「本当ニ、良カッタノカ・・・」
「今更何言ってるんだよ。僕は、君に賭けたんだ。後悔なんてしてないよ。それに、地球の人間にも僕たちの姿が見えるようになる日が来るさ。きっと。それより、地球を離れてる間に僕が、地球の礼儀ってやつを教えてやるよ。また、いつかのときみたいな騒動を起こされちゃあかなわないからな。」
「ハッハッハ、ヨロシク頼ムヨ!」


to be continued


藤木 創(ふじき・はじめ)

現高校2年。

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