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裁判官について

35回生  今泉 裕登

1 はじめに
 現在私は、裁判官という職業に就いています。去年任官したばかりなので、経験はまるまる1年程しかなく、本来は高校生のみなさんに「裁判」あるいは職業としての「裁判官」について語るべき立場にはないのかもしれませんが、私の数少ない経験の中から何かみなさんに伝えられるものがあるかもしれませんので、筆を取ることにしました。

2 裁判官について
 高校生のみなさんにとって、裁判官のイメージはどういうものでしょうか。厳格で、冗談も言わないような人、という感じでしょうか。または、仕事人間で、浮き世離れした人をイメージするのかもしれませんね。一般の人がイメージする平均的な裁判官像は大体右のようなもので、確かに真面目な人が多いというのは言えるのかもしれませんが、実際は、普通の人と同じように、遊ぶときは遊び、酒を飲むときは多少は羽目をはずし、働くときは働くという人が大半でしょう(私自身、人間が堅いなどと自分で思ったことは今まで一度もなく、どちらかというと不真面目な方の人間だと思っています)。
 いずれにしろ、普通の人にとって、裁判あるいは裁判官という存在が身近なものではないというのは言えるのかもしれませんが、法廷の傍聴は自由にできますので、是非一度法廷で裁判官の現実の姿を見てみて下さい。

3 現在の仕事について
 私は現在、刑事部に配属されており、刑事事件を担当しています。刑事事件では、法律上、殺人、放火等の一定の重罪については合議体(裁判長及び2人の陪席裁判官の合計3人で審理します)で審理すべきとされていますが、私は、その合議事件の陪席裁判官として法廷に立ち会っています。
 合議事件の場合、3人構成ですので、一人で判断できるわけではありませんが、その時々世間を騒がせた重大事件を審理することになりますので、非常にやりがいはあります。その一方で、最終的には当該被告人が有罪か、有罪だとすればどの程度の刑罰を科せばいいのか合議体で判断しなければならず、当該被告人の人生におけるその意味の重大さを考えると、合議体の中の一人とはいえ、自分の判断の重さというものを日々感じています。量刑については、犯罪の動機、態様、結果の重大性といった犯罪事実そのものの情状の他、被告人の反省の程度、これまでの生活状況、再犯の可能性、被害者の被害感情、示談の有無等を総合的に検討、判断する必要があり、慎重な判断を強いられますが、実刑に処すべきか、執行猶予にした方が妥当か迷う事案においては、特にその判断には神経をすり減らされ、合議体の3人の中でも激論が戦わされることが少なくありません。
 いくつかの事件を担当していて思うことは、今更ながらに犯罪の数の多さ、特に再犯者の数の何と多いことか!ということです。例えば数年間の懲役刑を当該被告人に与えることがその被告人の更正にとってどれだけの意味があるのか、当該被告人の立ち直り、更正に裁判官がどこまで役に立てるか、自分自身時々無力さを感じることがあります。所詮刑事裁判でできることには限界があり、犯罪者が更正できるかどうかはその人自身の更正にかける意欲、心がけによるとも考えられるのですが、自分としては(まだ青臭いのかもしれませんが)、そこまでは割り切れずにいます。

 最後に、私自身の反省をふまえて、みなさんたちにアドバイス的なことを一つ言わせていただきますと、それは、大学受験で全精力を使い果たさない、ということです。大学受験を控えたみなさんに今から言うのも何ですが、大学受験はあくまで手段であって、目的はその先にあるはずで、大学時代をいかに有意義に過ごすかによって、後の人生は全く変わってくると思います。私自身、大学入学当初漠然と過ごしてしまったせいで、将来の目標の設定及びその取りかかり(自分の場合は司法試験の受験)に時間がかかってしまい、結果として司法試験になかなか合格できませんでした。進むべき道が何であれ、大学入学後、ボーっと過ごさないように気をつけて下さい。4年間はあっという間に過ぎます。
 みなさんたちのご活躍を期待しています。


今泉 裕登(いまいずみ・ひろと)

昭和62年3月 久留米大学附設高校卒業(35回生)。
同年4月 東京大学教養学部文科T類入学。
平成5年3月 東京大学法学部卒業。
平成6年 司法試験合格。
平成7年4月 49期司法修習生。
平成9年4月 浦和地方裁判所判事補。

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